2020.2.7
ウィルスは絶対悪か?!
コロナウィルスが日に日に拡大しており、世界中を震撼させている今、ウィルスのイメージは脅威以外の何者でもないと思います。
しかしながら、実は、そもそもウィルスは人にとって「害」になるものと、「必要不可欠」なものと両方が存在しています。
そう言えば「細菌」も、「病原体」と「無害な菌」両方があります。
また、腸内では「善玉菌」と「悪玉菌」が「7:3」の割合で拮抗(バランス)しています。血中では1日に3000~5000個の「癌細胞」が生まれ、免疫の要である「リンパ球」がそれを退治することで戦闘力をキープ(アイドリング)しています。
少々思想的ですが、「必要悪」という言葉もあるように、物事にはすべて「拮抗する存在」が必要なのかもしれません。
今回は神戸大学の教授のウィルスに関する興味深い記事を抜粋しました。
人間と共生する生き物?
可能性未知数のウイルスの正体
神戸大学大学院農学研究科 中屋敷均教授
ただの病原体ではないウイルスの本当の姿と活用の可能性を探る
ウイルス=病原体とは限らない
ウイルスとは、バクテリア(細菌)、菌類、微細藻類、原生動物などとともに、よく“微生物の一種”と思われています。
中でもウイルスは、一般的に病原体、つまり“悪いもの”というイメージです。
しかし、「病原体」とされる微生物には他にバクテリアや真菌(カビや酵母の総称)などもあり、必ずしもウイルスだけが“悪者”というわけではありません。
真菌はわれわれと同じ多細胞生物、バクテリアはその体の一つの細胞が飛び出して独立して生きているものです。
そしてウイルスは、その細胞の中の遺伝子が細胞から飛び出て“独立”したようなものです。
もちろん遺伝子だけだと何もできませんから、細胞の中に入ることで初めて活動できるのがウイルスです。
遺伝子である核酸(DNAやRNAの総称)をキャプシドと呼ばれるタンパク質の殻が包み込んで粒子を作っているものとされています。
細胞からは独立した存在だが、宿主の細胞に入ると遺伝子として機能する。
侵入した細胞のタンパク質を利用するなどして、活動できるようになります。
要するにウイルスは、人間などの細胞を構成している一つのパーツのような存在です。
ウイルスの全てが病気の元になっているわけではありません。
いることによって何かしらの役に立っているものもあります。
現に、われわれの根本であるヒトゲノム(人間の遺伝情報)の45%が、「ウイルス」や「ウイルスのようなもの」で構成されていることが示されています。
「ウイルスがいたからこそ人間はここまで進化できた」と中屋敷教授は言うが、そうなると、やはり「=病原体」ではないのかもしれない。
ウイルスは一般的には病気の元になりますし、それは事実。
一方でウイルスがあるからこそ元気でいられることもある。
例えば、子宮で子供を育てるという戦略は、哺乳類が繁栄できているキモだと言われている。
実は、子宮の胎盤形成に必須の遺伝子の一つがウイルス由来のもので、胎盤の機能を進化させる上で重要な役割を果たしていることが知られています。
現在でも、その遺伝子がなければ胎盤は正常には作れません。
また、ウイルスには他の病原体の感染をブロックしてくれるような存在意義もあります。
「例えばヘルペスのように、それがいることで他の菌に感染しにくくなっている、と報告されているものがあります。あるウイルスのおかげでわれわれの体は他の菌やウイルスに対して強くなる。つまり、ワクチンを打っているようなものかもしれませんね」
ウイルスは遺伝子として機能するため、ゲノムの中に存在するウイルスは、多様で重要な役割を果たしていることが、次々と分かってきているといいます。
「そもそもわれわれの進化も、そういったウイルスや“ウイルスのようなもの”のおかげで加速されてきた側面があると思います」というように、DNAにウイルスが入ってくることで変革が起こり、それが長いスパンで見ると“進化”の引き金になったとこともあるそうだ。
「ウイルスは基本的にエネルギーを作ったりはしません。自身では設計図を持っているだけで、それを誰かに渡して製品(遺伝子産物や子孫)を作ってもらっているような感じです。自分の製品をより多く作ってくれるところへ潜んでいき、そこで設計図を渡す。だからウイルス自身が何か生産的なことをしているというより、宿主の細胞に働きかけて上手にそのシステムを利用しているイメージです」
人間が長い年月をかけて現在の形になったように、もしかしたら今から10億年後に、現在のウイルスを先祖として進化した“生物”がいるかもしれない。